モラハラ夫が離婚に応じてくれません。

夫婦間におけるモラルハラスメント(精神的な暴力、暴言、DV)は、家庭内の問題だけになかなか他人には相談しにくいもの。一方、精神的なストレスを無理に我慢し続けると、心や体に変調をきたしてしまいます。そこで離婚を切り出すものの、相手が応じてくれない…。他人には相談しにくいことだからこそ、自分でできる対策はないものでしょうか。今回はモラハラを繰り返す夫が、離婚に応じてくれない場合の対応策をご紹介します。

モラハラ加害者が離婚してくれない…は珍しくない

モラハラを行う人が、加害を加えている相手を手放したがらないのは、珍しいことではありません。社会は、様々な人で構成されます。ですので、自分の思い通りにいくことばかりではありません。モラハラを行う人は、一般に、「家の外では、家族のために『本当の自分』を出すのを我慢させられている」と感じていると言われています。そのため、本人なりのバランスを取るために、家庭内では、思う存分「本当の自分」を出す権利があると思っているようです。「『本当の自分』を受け止める義務のあるパートナー」がいなくなることは、モラハラ加害者にとって死活問題です。ですので、暴言や精神的なDVを繰り返す加害者が、パートナーを手放したがらない(離婚に応じない)といったケースはよく耳にします。しかし、モラハラを受けている側からすれば、いつか必ず限界がきますから、離婚に向けて準備をしておかなくてはなりません。

そこで、次のような対応策を講じていきましょう。

離婚に向けた準備・対応策

モラハラ加害者との離婚を成立させるため、自分で出来ることは「避難」と「証拠集め」です。
具体的には、以下のような方法が考えられます。

生活費の確保

別居後、婚姻費用の分担調停の申し立てが可能です。
しかし、DV加害者が横暴であればあるこそ、すぐには婚姻費用の分担に応じないリスクが高いです。
そこで、別居前に最低限3か月程度の生活費を確保しましょう。
この点、実家が援助を約束してくれるのであれば、一安心です。
ですが、肝心なのは、実際に少なくとも3か月間生活を支えてもらえるかどうかです。
DV加害者によっては、別居する以上、夫婦共同生活を維持するための費用は払えないと言って、給与振込口座を変更してくる可能性もありますので、注意が必要です。
向こう3か月間の支出を見極め、別居に適した時期かどうか、よく考えましょう。

なお、場合によっては生活保護を申請することにより、生活費を確保していない状態でも別居が可能です。
このあたりは、あらかじめ生活保護制度にも精通している弁護士にご相談しておくことをお勧めします。

一時避難

自分の心と体を休めるために、パートナーと暮らしている場所から早めに避難しましょう。
この点、偶然出会って連れ戻されるのを防ぐため、元の自宅と生活圏が重なっていないことをお勧めします。
よくお子様の学区を変えたくないとおっしゃる方がいらっしゃいます。
ですが、子どもの適応能力は大人が想像するより、高いです。
学区内に引っ越した結果、近所に住んでいることをすぐにDV加害者に把握されてしまった方は少なくありません。
平穏な生活を望むのであれば、引越先は慎重に選ぶ必要があります。
場合によっては、学区外に住みながら、一定期間元の学区に通う方法もあります。
このあたりの方法は、離婚に精通している弁護士にお早めにご相談いただければと思います。
なお、実家や友人が離婚に賛成し応援してくれているのであれば、実家や友人宅でも構いません。しかし、両親や友人だからといって、必ずしも離婚に賛成してくれるとは限らないので、相手の考えを慎重に見極める必要があります。
表向きは離婚に賛成しているように見えて、実は、世間体などを気にして、離婚に反対する人は少なくはありません。
モラハラによる離婚を成立させるためにも味方になってくれる弁護士にいち早く出会うことが肝心です。

記録・メモ・録音

暴言を受けた際、できるだけ記録に残すようにしましょう。
音声を録音できれば良いのですが、録音用の器材を入手できなかったり、突発的な暴言で録音できなかったりといった場合は、他の方法でも構いません。紙に書いても良いですし、デジタルなもの(メールの下書きやSNSのチャットなど)でも構いません。たとえば、SNSのチャットで友人や家族に打ち明けるかたちをとれば、第三者の協力も得られやすく効果的です。これらは、後々の離婚調停・裁判における証拠になります。

毅然とした態度で臨む

モラハラは、回を重ねるごとにエスカレートしていきます。
そして、モラハラを重ねる加害者は、自分の言動に興奮して冷静さを失いがちです。

仮に、モラハラが始まって間もないのであれば、人目のある所で、相手に止めてほしい言動をはっきり伝え、「止めてもらえないのであれば離婚もやむを得ない」と伝えることにより、それ以上のエスカレートを防げる可能性もあります。
ですが、モラハラがエスカレートしてしまった加害者と2人きりで話し合うことは、危険が伴うので、やめましょう。

長年つちかわれた関係性を変えることは難しいので、別居後、第三者を通じ、離婚の意思を伝えることをお勧めします。

モラハラ夫と離婚する3つの方法

離婚を確実にするため、離婚するための典型的な方法を知っておく必要があります。
一般的に、離婚の方法は、以下の3つのパターンのいずれかによることが多いです。

1.協議離婚
いわゆる「当事者同士での話し合いによる離婚」です。しかし、これで解決するならば苦労はしませんよね。そもそもパートナーが話し合いに応じてくれない、話し合っても理解してくれないというケースですから、協議離婚が成立する可能性は低いといえます。

2.調停離婚
家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停委員に間に入ってもらう形で、夫婦の話し合いによって、離婚を成立させる方法です。離婚調停は必要書類と収入印紙さえ用意できれば、誰でも申し立てることができます。必要書類は、おおむね以下のとおりです。

・夫婦関係調停申立書
・夫婦の戸籍謄本(裁判所によっては住民票も必要)
・収入印紙、切手

離婚の原因として暴力を主張する場合は、同居中の暴力によって怪我や体調不良が生じたことを証明するための医師の診断書を用意することをお勧めします。

申立後に、裁判所から事情説明書などの書類の提出をうながされることもあります。
さらに、自分の言い分を調停委員会に理解してもらうため、陳述書を準備した方がいい場合もあります。
離婚調停を申し立てるための費用は、収入印紙代1200円分、郵送の切手代800円分で、戸籍謄本などの公的書類の取得費用を加えても、3000円未満におさまります。
ただし、弁護士へ手続きを依頼する場合は、別途依頼料がかかります。
なお、弁護士以外の人物は、調停室に同席できません。
最近、弁護士資格を持たない人物が、「離婚カウンセラー」や「専門家」の肩書で離婚の相談を受けているようですが、彼らは調停室に同席できないのです。
調停室の中で調停委員を通じて話し合いをする場合に、調停室に入れない人物の支援を得ても効果的ではありません。
調停の前段階から、場合によっては調停や訴訟も見越したうえで、手厚い支援をうけるため、最初から弁護士に相談することをお勧めします。

3.訴訟離婚
調停はあくまでも夫婦の合意によって離婚を成立させる方法です。
したがって、調停委員を間に挟んでもパートナーが離婚に応じない場合は、より強硬な手段に出る必要があります。それが「訴訟離婚」です。文字通り、訴訟を経て離婚を成立させます。離婚訴訟を利用する場合、離婚は裁判所の判決によって成立しますから、パートナーの同意は必要ありません。
これは、訴訟による離婚が認められる場合については、民法770条に規定があります。

“第770条 (裁判上の離婚)
1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2.裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。”

訴訟によって離婚する場合、770条1項の離婚原因に該当する理由や婚姻の継続が相当ではないことを主張立証しなければなりません。
証明に失敗すると、離婚は認められません。
ですので、モラハラの場合に訴訟によって離婚を確実に成立させるため、早期から弁護士のサポートを受けることが必要です。

モラハラ夫との離婚は調停・裁判を視野に入れる

このように、モラハラ夫との離婚では、協議離婚以外の方法を考えていくべきです。つまり、調停や裁判ですね。しかし、どちらも法的な手続きですから、専門的な知識が必要です。モラハラ夫との離婚は、専門知識を持った第三者である弁護士のサポートが欠かせません。また、仮に協議離婚を目指すとしても、弁護士の存在自体が「事態の深刻さ」や「意志の固さ」を夫に知らせることに役立つでしょう。

まずは証拠と安全な場所を確保し、調停や裁判を視野に入れながら、離婚に強い弁護士に相談することをおすすめします。