離婚と氏

第1 調停や裁判での離婚の場合も届出が必要です

1 必要書類の事前確認を

(1)離婚届等の必要書類の事前確認を

  実は、離婚の種類にかかわらず、離婚届を提出する必要があります(提出先の役所に本籍がない場合は、戸籍全部事項証明書又は戸籍謄本を一緒に提出する必要があります。)。 違いは、離婚の種類によって、離婚届の記載欄が変わるだけです。 協議離婚の場合は、太枠内を全て埋める必要があります。また、離婚届を届け出る人の本人確認書類(運転免許証,パスポート,マイナンバーカード,健康保険証等)が必要です。 調停離婚や裁判離婚の場合は、調書や裁判書の謄本等(審判書と判決の場合は確定証明書も必要です。)を提出することによって、離婚の事実を確認できるため、相手に離婚届の太枠内へ記載してもらう必要がありません。謄本と一緒に相手が離婚届の太枠内に必要事項を記載した離婚届を提出する場合は、印鑑はいりませんが、相手が必要事項を記載していない離婚届を提出する場合はご自身の印鑑を持参されてください。 届出の際、必要書類がないと離婚届が受理されません。 上で説明したとおり、離婚の種類と届出先の役所が本籍地かどうかによって必要書類が異なりますので、ご自身で手続きを取られる場合、離婚が成立しそうになったら、事前に確認しておきましょう。  

(2)離婚に伴い必要となる手続きについて事前確認を

  離婚に伴い,以下の手続きが必要になる場合があります。 手続きが必要になるかどうかは、各役所・出張所の窓口で事前に確認することができます。 離婚届を提出する際、同時に手続きできるよう、事前に確認しておかれることをお勧めいたします。 1. マイナンバーカード・通知カードの氏名変更 2. 国民健康保険 3. 国民年金 4. 子ども医療やひとり親家庭等医療などの医療費助成制度 5. 児童手当 6. 児童扶養手当

2 離婚届の提出時期について

協議離婚の場合、届け出した日が離婚日になるので、特に、提出期限はありません。 調停や裁判での離婚の場合、離婚届を市町村役場に提出する必要があります。 たとえば、調停離婚や判決など裁判所で離婚が成立した場合、調停等の成立又は裁判が確定した日から10日以内に、調書の謄本又は裁判書(審判書・判決)の謄本及び確定証明書をつけて、離婚届を提出しなければならないので、注意が必要です。審判書と判決の場合、確定が必要なので、審判や判決が出た後すぐに届け出ができるわけではありません。審判や判決の場合に届け出ができるようになるのは、審判書の場合は審判の告知を受けた日から、判決の場合は判決書の送達を受けた日から2週間が経過した後です。 このように、家庭裁判所の関与によって離婚が成立する場合、どのような形で成立するかによって、離婚届を提出できるようになる時期と提出期限が変わってくるので注意が必要です。

3 どちらが離婚届を提出する?

(1)法律が予定する届出者

  協議離婚の場合、夫婦のどちらでも離婚届を提出できます。 調停や裁判での離婚の場合、その手続きを申し立てた人が離婚届を提出するのが普通です。 自分が調停や裁判を申し立てていない場合でも、本来調停成立や裁判の確定等から10日以内に手続きをすべきだった相手が10日を過ぎても届け出をしない場合は、謄本等を取得し、「戸籍届出期間経過通知書」(用紙は市町村役場の窓口にあります。)と一緒に提出すれば受け取ってもらえます。  

(2)結婚によって名前を変えた人が届け出た方がスムーズです

  日本は、夫婦同姓とされています(民法第750条)。 そのため、夫婦の一方は、結婚によって相手の名字を名乗り、相手を戸籍の筆頭者とする戸籍に入っています(戸籍法第14条)。 戸籍とは、日本の政府が、国民を把握するために使っている制度をいいます。 未婚の成人の場合、一人でも戸籍を作れます。 結婚している場合は、夫婦を一つの単位として、新しい戸籍が作られます(戸籍法6条、16条)。その夫婦に子ができた場合は、その夫婦の戸籍に順次追加されていきます。 離婚する場合、結婚によって相手の名字を名乗るようになった人は、相手の戸籍から出て、元の戸籍に戻るか、新しく戸籍を作るか選べます(戸籍法第19条)。 なお、離婚の際の名字をそのまま名乗り続ける場合は、自分の親と名字が違うため、親の戸籍には戻れませんので、注意が必要です。 離婚によって、筆頭者の戸籍から出て行く親が、親権者として定められている場合、その親権の対象となる子も一緒に次の戸籍に移動させる必要があります。 このように、離婚によって戸籍を移動する必要がある人はどのみち戸籍法上の手続きを取る必要があります。そのため、戸籍を移動する必要がある人が離婚届を役所に提出しに行った方がスムーズといえます。 そこで、離婚が成立しそうになったら、自分が離婚によって戸籍を移動しなければならないのか、事前に確認しておくと、届け出のためにばたばたしなくてすみ、安心です。 なお、自分が裁判所に手続きを申し立てていない場合でも、調停条項等で「相手方の申出により離婚する」と定められているときは、相手が2週間の不変期間内に離婚届を提出するかどうかに関係なく、直ちに離婚届を提出することができます。

第3 離婚による復氏の原則

1 離婚による復氏の原則

民法第767条は、「離婚による復氏等」として、「婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。」と定めています。そのため、結婚の際に相手の名字を名乗ることを選んだ方は、離婚届が提出された後、何も手続きを取らなければ、結婚前の名字に戻ることになります。

2 結婚によって名乗るようになった名字の継続使用も可能

結婚前の名字ではなく、そのままの名字(「婚氏」といいます。)を使いたい場合は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を役所に届け出る必要があります(民法第767条第2項 、第771条、戸籍法第77条の2)。 注意が必要なのは、結婚により名字が変わった人が子どもの親権者として指定された場合、親権者が離婚後に婚氏を続けて名乗ることを選んだとしても、親権者として未成年者の子どもを同じ戸籍に入れる場合には、「子の氏の変更許可申立て」を経て、子どもを同じ戸籍に入れる必要があります。 これは、法律上、婚氏続称によって名乗る名字は「呼称上の氏」として扱われ、民法上の氏は婚姻前の氏に復していると扱われていることから、親権者と子どもの「民法上の氏」が異なっているとされるからです。 つまり、結婚により名字が変わった人が子どもの親権を持つ場合には、その人が婚姻前の氏に戻っても、婚氏を続称しても、親権を持つ子どもについては、いずれにしても「子の氏の変更許可申立て」を経たうえで、「母(父)の氏を称する入籍届」(民法791条1項・3項)をしなければなりません。ですので、離婚後、旧姓に戻した場合も、婚氏をそのまま名乗る場合も、裁判所や行政窓口に行かないといけないということは覚えておきましょう。

3 親権者と子どもの名字は同じじゃないとだめ

先ほど述べたように、あなたが離婚後子どもの親権を持つ場合、その子どもはあなたと一緒の戸籍に入る必要があります。そして、戸籍には同じ名字の人しか入れません。そのため、子どもの親権を取る場合、あなたが選ぶ名字が子どもの名字になります。そのため、離婚後それまでと同じ名字にするのか、前の名字に戻るのかよく考える必要があります。 なお、離婚届提出の際、どちらの名字を名乗るか決めきれなかった結果、いったん、結婚前の名字に戻った場合にも、離婚の日から三か月以内に戸籍法に従い届け出ることによって、離婚までに名乗っていた名字に戻すことはできます(民法第767条2項)。ただし、この場合、子どもをあなたの名字にあわせるため、家庭裁判所に子どもの氏の変更について許可を得た上で、役所に氏の変更を届け出た後、あなたが離婚までに名乗っていた名字に戻すため届け出をした後、またお子さんの氏をあなたの名字にあわせるため、ふたたび、裁判所の許可を得た上で役所に届け出ることになります。手間を考えると、離婚する前に、離婚後の名字や戸籍についてよく考えておかれることをお勧めします。 なお、離婚によって名字が変わった未成年の子どもは、成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより役所に届け出ることによって、両親の離婚まで名乗っていた名字に戻すことができます。 ですので、離婚の際に、子どもが一生背負う名字を決めるわけではなく、子どもが成人になったら自分で好きに変えたらいいと思うと、少しは楽な気持ちで名字を選べるのではないでしょうか。

4 子の氏の変更許可申立ては誰がするのか

「子の氏の変更許可申立て」は、子が15歳未満の場合は、法定代理人(親権者)が、子が15歳以上の場合は子ども本人が行う必要があります(民法第791条1項・3項)。 なお、離婚によって名字が変わっ

第4 婚姻中、夫婦の一方が死亡したとき(番外編)

1 生存配偶者の復氏の制度

あなたが結婚によって相手の名字を名乗っていたものの、配偶者が亡くなったため、結婚前の名字に戻りたい場合、復氏届を市町村役場に提出する必要があります(民法第751条第1項、戸籍法第95条)。本籍地以外の役場に届け出る場合は戸籍謄本が必要です。 配偶者の死亡に伴う復氏届の提出には期限がありません。 ただし、国際結婚の場合で、外国人の死亡に伴う復氏届については、亡くなった日の翌日から3か月を経過すると、家庭裁判所の許可が必要になります(戸籍法第107条第3項)。

2 姻族関係終了届け

婚姻中、配偶者が死亡しても、配偶者の親族とあなたとの法律関係(これを「姻族関係」といいます。)は終了しません。あなたが、姻族関係を終わらせたい場合は、姻族関係終了届に、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を記載して、役所に提出することにより、姻族関係を終了させることができます(民法第728条第2項戸籍法第95条)。 この場合でも、配偶者の両親とあなたと配偶者との間の子の相続関係は否定されませんので、ご安心ください。